『東京奇譚集』 (村上春樹) | coffee house  

『東京奇譚集』 (村上春樹)

 日向を歩けば暑く、喫茶店に入れば寒い。この街(トウキョウ)はなんともバランスの悪いところだなぁ、と思いつつ、買ったばかりの村上春樹著 『東京奇譚集』を読みました。5つの短編が収められているのですが、トータルとしてとても楽しい短編集です。コンセプト・アルバムみたいになっています。だから一つひとつをバラバラに読むんじゃなくて、頭から順番に一気に読むとかなり面白い。(僕は今日の移動時間をすべてこの小説に奪われました。そしてすっかり騙されました・・・)

                

         

「(略)しかし階段は何よりも大事だというのが夫の考え方でした。階段というのは建物の背骨のようなものだと」(「どこであれそれが見つかりそうな場所で」より)

   

  

 5つの短編を一つひとつ、それこそ慎重にゆっくり階段を降りるように、読んでいったのですが、慎重に読んだからこそ(?)、すっぽり引っかかってしまいました。「品川猿」を読み終えたときには、階段の最後の一段を踏み外したような感じになりました。   

                       

 キーワードは「奇譚」です。とはいっても、現実(だと僕らが日ごろ考えているもの)と非現実の境界線上を、(非現実の方に流れていかずに、)グッとキープしながら話が進みます。その抑え方があまりに絶妙で、さすが作家さんだなぁと感心します。

        

 どれも、等しく面白いのですが、特に4つ目の「日々移動する腎臓のかたちをした石」は、――僕は「蜂蜜パイ」(『神の子どもたちはみな踊る』 )がとても好きなので――順平の再登場に心踊りました。でも一番心に残ったのは「品川猿」かな、やっぱり。

              

 といろいろ言いかけたところで、これから読む人の楽しみを削いでしまってはいけないので、ここで止めておきます。

                      

                 

 村上春樹 『東京奇譚集』(2005年9月:新潮社)